ヒットの背景を知れば、深海誠作『君の名は。』 200億円越えのメガヒットは必然の結果だった。

君の名は。
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君の名は。 200億円越えのメガヒットをマーケティング的観点からひも解いてみる

前回はネタバレを防ぐために、ほとんど君の名は。に関する内容い触れなかったのですが、もう時期もいいだろうということで、今回は大いにネタバレを含んでいますので、ぜひ一度見て、もう一度見たいと思っている人や、なぜヒットしたのかを知りたいあなたに読んでいただければと思います。今回は元々深海誠ファンだった筆者が、誰よりも、どこよりも、詳細に、独自の観点を交えながら、この大ヒットの理由をひも解いていきたいと思います

そもそも、200億円がなぜ騒がれるかというと、年間の映画の興行収入が約2000億円程度なので、その10%にもあたる数字をたった1作品でたたき出しているからなんですね。ただし、このメガヒットの理由のマーケティング施策や作品の出来上がりの裏事情を知れば、この200億円というヒットは決して、偶然ではなく、そうあるべくして出来上がったということがご理解いただけるかと思います。

深海誠作について

深海映画の良さのはこちらの記事でも伝えたので良ければ合わせて読んでもらえればと思います。

 

 

深海誠映画の真骨頂は、絶妙に流れる音楽。美しい映像と、音楽とともに進んでいくストーリー。主役が音楽であり、風景であり、ストーリーであり、登場人物の表情であり、そのすべてなのだ。ある特定の時間におけるカット数が多く、速いテンポで進んでいくストーリ展開。映画のスピードがあり説明しすぎない。これは映画に隙間があるということで、自分自身でそのシーンを考えさせられるということなのである。

また、作中には、そういったシーンで絶妙な音楽が流れることで、視聴者に思いをはせる時間を与えてくれるのである。少し早めのテンポで進むにも関わらず、細部にまで、こだわり抜かれている深海誠作に、視聴者は今度は、映像を主役に、登場人物を主役にと目線を変えて、また、自分を主人公に置き換えて、もう一度見たいと思わされるのだ。(君の名はの総カット数は1690で、映画が107分なので、一カット平均3.86秒、これは、通常のアニメが21分程度で250~400カット用いられることを考えると、実はそんなに多いカット数ではない。ただし、音楽とともに一気にストーリー進んだりストーリーの速さに抑揚がありスピード感を感じるのだ。秒速5センチメートルの第三話秒速5センチメートルの山崎まさよしの曲に合わせて一瞬にして流れていくシーンを見てもらえれば、私が言っている意味が分かると思う。)

ヒットするべくして、作られた映画であるということ

前回の記事で、私は220億から250億円を予想していたが、250億円にまでは届かないものの、220億円程度まで伸びていくだろう。前作の興行収入が1.2億円だったことから、異例の大ヒットと言われているが、作品(商品)の良さと、それを生活者に届ける、マーケティング施策を知れば、このヒットは作られるべくして作られたことがわかるはずなのである。

マーケティング施策として

1.1 シェアされるための下準備を行ったこと
1.2上映されるスクリーン数を増やした

作品の良さ:加わったストーリー性

2.1「結び」という心に響くキーメッセージ
2.2 日本の良さを感じさせる伝統や方言が点在
2.3 ストーリーの目的がシンプルで、明確
2.4 シンプルだけど先がよめないストーリー。
2.5 何よりもハッピーエンドであるということ。

これまで以上にこだわられたもの

3.1 共感を呼ぶ主人公
4.1 上映時間が107分であるということ
5.1 RAD WIMPSという存在
6.1制作スタッフの力

ではでは上記の内容を早速分析していってみよう。映画の売上はどうやって決まるだろうか?全て本人で映画のチケットを購入すると仮定すると、

興行収入=観客動員数(チケット購入者数+リピート者数*)x平均チケット単価となる。
*リピート数は延べ人数とする(2回同じ人がリピートしても2人とカウント)

では購入者数を上げるにはどうすればいいか?金額を下げる戦略も、もちろんあるだろう。しかしこれはほかの映画との兼ね合いもあり、この映画だけ1500円みたいにするのは現実的でないのはわかるだろう。(ただし、学生よりも一般のほうが料金が高いため、一般の人に広げることで、平均単価は上昇する)

では購入者数をあげるためには、一体どうすれば、いいのだろうか。一番簡単な方法は、湯水のごとく、莫大な資金をつぎ込んで、TVCMの広告枠をひたすらに買い集め、宣伝をし続ければ、映画の認知度は広告費に応じる形で、あがり、見たいと思ってくれる人も増えるだろう。広告宣伝費にお金を費やすとなると、まず最初に思い浮かぶのが、広告代理店とTV局ではないだろうか。電通や、博報堂といった、超メジャーな広告代理店に、お金を払い、TV局に製作委員会の一員になってもらい、TVCMをうってもらい、認知度を上げていくのが、マーケティングのセオリーといえるだろう。例を挙げるなら、ジブリ映画はもののけ姫以前は、博報堂が、もののけ姫より、電通が広告宣伝を担当している。(名探偵コナンや、ワンピース、妖怪ウォッチ等の他の大ヒット映画にTV局が絡んでいるのは、アニメが放映されている関係もあるだろうが。)ここまで、話してもう結論はみえているだろうが、驚くべきことに、「君のは。」は実はこういった広告代理店や、TV局と一切タッグをくんでいないのだ。

次は君の名はのシネマトゥデイの初週の評価である。

新海誠『君の名は。』空前の大ヒットスタート!12億円突破で初登場1位
新海作品としては史上最大規模の301スクリーンで公開された同作は、動員68万8,000人、興行収入9億3,000万円を記録。26日金曜日の初日を合わせた3日間では、動員95万9,834人、興収12億7,795万8,800円と早くも興収10億円を突破する大ヒットスタートを切った。ーシネマトゥデイ

広告代理店ともTV局ともタッグをくまず、空前の大ヒットスタート。どういう事?という感じだろう。はたして、東宝はどういったマジックを行ったのだろうか。

実は、このスタートダッシュをきるために、東宝は2つの取り組みをおこなったのである。1つ目が十分シェアせれる要素を整えたことスクリーン数を増やしたのだ。(上映される映画館の数をふやしたのである)

購入者数をあげるために、東宝が行った取り組み

1.1 シェアせれるための下準備を行ったこと。

約1か月前に公開されたシンゴジラは試写会をほとんど行わない”見せない宣伝”が執り行われた。一方で、コアなファンはいるが、認知度が低い深海作品に多くの人にとどけるために、東宝は、なんと、4万人弱に試写会を執り行った。一人当たりの金額が平均1300円(12月6日時点:1299.9円=200.06億円/1537万人)だとしても、5000万円以上にも上る金額をタダで見せたのである。前作の興行収入が1.2億円だったことを考えると、東宝の本気度と、深海誠への信頼度がみえてくるのではないだろうか。(ただ、気づいてほしいことは東宝は売上を失ったかもしれないが、誰かに広告宣伝費をはらったわけではないという点は抑えておく必要があるだろう。)

また、君の名は。のエグゼグティブプロデューサーの古澤氏によると人が映画を見たいと思うタイミングは実は映画館が一番多く、テレビスポットや街中の広告より、映画館の予告編やポスターを見て、「次はこの映画を観よう」と思う人が1番多いそうだ。だから、4月16日公開で興行収入60億円を超えた、『名探偵コナン 純黒の悪夢(ナイトメア)』の上映劇場で、『君の名は。』の特報を、その後こちらも大ヒットした『シン・ゴジラ』でも上映劇場でも予告編を流していたのである。

また、サントリーの天然水とコラボをして、認知度を上げていっていた。

加えて、映画公開前にYOUTUBEなどでリリースされていた、RAD WIMPSの主題歌「前々前世」が耳に残る良い曲だったため、動画配信サイトのYoutubeや音楽ストリーミングサイト前前前世は常に上位に表示されていた。(100万再生で大ヒットといわれるYoutubeで16/12/11時点で、8000万回が再生されている)

こうした地道な取り組みを経た結果、実は、公開前の8/15の時点で、50万の口コミ、そして、公開日の8/26にはに120万を超す口コミがひろがっていたのである。11月の時点で、口コミが220万程度ということを考えると事前の広がりがすさまじかったことがわかるのでないだろうか。(株式会社スパイスボックス調べ)

1.2 上映されるスクリーン数を増やしたこと。

前作の「言の葉の庭」の興行収入は皆さんご存知だろうか?約1.2億円である。では前作はどれくらいのスクリーン数でこの興行収入をとったのだろうか?なんとたったの28スクリーンなのである。今回は興行収入20億円を事前に狙ったとあるが、スクリーン数を10倍にすれば、単純に12億円になる20億円の目標の半分はスクリーン数を増やすだけで達成できるということになるだろう。

生活者が見たいと思ったときに、すぐに手を伸ばせる状態をつくっておくこと。(Marketing用語でいうところの、Physical Availabilityを作っておくこと)はマーケティング上当たり前のことである。実はこの映画最初から興行収入20億円を狙って、最低250スクリーン300スクリーンを目指して、制作を行っていたのである。つまり、スクリーン数を考えずに、前作の言の葉の庭の興行収入1.2億円と比較すること自体が、ナンセンスであることが、わかっていただけただろうか。

深海誠作を好きな周りの友人に聞いてほしい。前作から200倍面白い映画(興行収入比だとそれ位)だっただろうかと?何か作品自体に、大きく深海誠作が変わったことがあったのかと。経済学的には、バンドワゴン効果などといったりするが、露出が増えそれが受け入れられれば、その売り上げは加速度的にあがっていく、28スクリーンで1.2億円をたたきだしていた時点で実は以前より、深海誠作は、優に10億円、いや15億円をゆうに超すレベルの作品の力を持っていたといえるのである。

なぜ、広告代理店も、TV局ともタッグを組まずに、あのような、スタートダッシュを切ることができたのか?その答えは、ここまで見ていただいてわかるとおり、東宝は公開前に、試写会xスクリーン数x音楽という、 映画がもつ、力と、自社がもつ、力をフルに活かし、スタートダッシュへの準備を淡々と進めていたからなのである。

一旦脇道にそれて、トライアルとリピートの重要性について考えてみたいと思う。マーケティングにおいては、1回目の購入者のことをトライアラー(トライアルをした人)だが、トライアルを上げることはどれほどまでに重要なのだろうか?トライアルとリピートに占める興行収入の割合を見たときに、皆さんはどちらが高いと思うだろうか?ここでは簡単な数字を使ってその説明を行いたいと思う。

さて、ここは、あくまでもトライアルとリピートの重要性を考えるので、細かい割合が本当に正しいのかなどは重要ではないので、その部分は打倒だと思える数字をで当てはめて、考えていきたいと思う。また、ここでは計算上の、対象を12歳から80歳までの1億500万人として考えていく。(平成26年の総務省のデータより算出)

皆さんは、今回の映画「君の名は。」はどれくらいの人が見ていると考えるだろうか?クラスメートや同僚に聞いて頂きたいのだが、感覚値として、最低でも10人に1人くらいは見ていると思うのではないだろうか?

そのうち2回目見た人(Repeat1)を30%、2度見る人は3度見るということで、さらにその中で、3回目を見た人(Repeat2)を約50%でと仮定してそれぞれの割合を考えていこうと思う。まずはトライアル率が1%ずつ減ったとき(リピート率は同じ)の興行収入に与えるインパクトを考える。 *リピートの上限は2回までと仮定

君の名は。

筆者作成 トライアル率とリピート率

この割合をもとに興行収入を計算すると以下のようになる。12月6日時点での観客動員数が1537万人で、興行収入が200.06億円なので、おおむね大きくは外れていないはずだ。さて、ここで数字を見てみるとわかるのだが、 トライアル率が1%下がるたびに、興行収入ベースでみると、20億円マイナスになることがわかる。

筆者作成 興行収入の計算

筆者作成 興行収入の計算

ではこの1%のトライアル率の減少(約マイナス20億円)を取り返すために、リピート率はどれくらい増やさなければならないのか。リピート率をそれぞれ+1%、+5%、+10%として計算してみよう。下記を見てもらうとわかるが、率というのは、母数の数に依存するので、①トライアルが1%減ったのをとりかえすのに、リピート率を1%あげただけでは、到底追い付かない。

君の名は。

筆者作成 興行収入の計算①

②トライアル率が5%も上昇したとしてもまだ、ー8.5億円となる。
リピート率を10%も向上させたとして、やっとトライアル率1%の減少を取り返せるのである。

君の名は。

筆者作成 興行収入の計算②③

仮にトライアル率が半分の5%の場合なんと、リピート率が100%という実質不可能な数字にならないと、ー5%を埋めることができなくなるのだ。

君の名は。

筆者作成 興行収入の計算④

本質的にリピートというのは、商品(この場合は映画)が良ければ、リピート率は必然的に上がっていく。 美味しくないと思ったパンや、良くないと思ったサービスは基本リピートせず、良い接客を受けたレストランや、自分が好きと思ったものは、リピートする経験を皆さんも納得頂けるのではないだろうか。

こと映画は基本的には、1回しか見られないため、この業界でのマーケティングの基本になるのは、どれだけトライアラーを増やすかの部分になるのである。しかも、トライアル率は、リピート率に比べインパクトが非常に大きくここを伸ばすことが非常に重要であり、以降のリピート数にも直接的に影響してくる数字となる。初週のスタートダッシュをみても分かる通り、映画「君の名は。」が十分な数のトライアラーを獲得したことは明白だろう。

君の名は。

筆者作成 興行収入の計算 ①~④

これまで唯一たりなかったストーリー性がリピートとシェアを生んだ。

上記でトライアルを作るために、東宝の取り組みを見てきた。先ほどはトライアル率を上げることの重要性を問うてきたが、リピート率が重要でないわけではない。下記の計算を見ていただければ、分かると思うが、 もしリピート率が0%の場合、興行収入ベースでみると、約60億円もの差が出てしまうのだ。

君の名は。

筆者作成 リピート率の重要性

下記を見ていただきたいのだが、トライアル率のみを変えて、リピートの売り上げに占める割合を構成比化してみた。

①トライアルが10%、リピート1回目が30%、リピート2回目が50%とした場合、興行収入の約3割がリピーターによる、興行収入となる。

②トライアルが10%、リピート1回目が40%(+10%)、リピート2回目が60%(+10%)だとすると、興行収入の約4割がリピートによるものになる。

③トライアルが10%、2回目と3回目のリピート率が100%の場合その約66%がリピートによって占められる。

君の名は。

筆者作成 リピート率の重要性

この数字は決して馬鹿にはできないというのがご理解いただけただろうか。ただし先ほどもお伝えしたとおり、リピート率というのは基本商品の良さに依存する。そして今回は、言うまでもなく、映画自体が素晴らしかったということがリピートとその後の広がりを生んだ。一旦リピートの渦が生まれると、そこから、更に口コミが広がり、さらにトライアラーを増やし、その人達が、リピーターになり、シェアを始めるという無限のループが発動する。友達みんなが、あの映画めちゃくちゃ面白い。超感動した。Radの音楽最高。3回見に行った、あの宮﨑駿作を越えるかもしれない?などとまわりで、わめき散らせれれば、誰でも、見に行ってみたいと思わないだろうか。そして見に行ったあなたは、その映像の綺麗さに、音楽にストーリにー酔わされ、シェアを始めてしまうのだ。これは、いわいる、バズっているという状態に入っているということだろう。

皆さんは、バスマーケティングと言う言葉をご存知だろうか。近年では結構有名にはなっているが、念のために定義を見てみよう。バズ・マーケティングの権威である、マーク・ヒューズによると、 バズ・マーケティングとは、あなたのブランドや会社について話題にすることが、楽しく、魅力的で、報道価値のあることになるまで、消費者とマスコミの注意を引くこととある。またマークヒューズによると、バズ・マーケティングが一度作動すれば、それは従来のマーケティング施策の10倍1のコスト、すなわち10倍役割を果たすと言うのだ。

この映画がなぜ、楽しく、魅力的だったのかは、セクション2で話すとして、まずは簡単にだが、マスコミの取り上げられることの価値と、なぜマスコミに取り上げられたかということを伝えたいと思う。

マーク・ヒューズはバズの3つある基本の1つとしてマスコミに取り上げてもらうことを上げている。そしてマスコミに取り上げてもらうことは、一般的なマーケティング施策の6倍にものぼる費用対効果があるというのだ。それはマスコミ自身が注目を集めており、記者には、虚位の主張をでっちあげる、動機がないため、広告などよりもずっと、説得力があるためなのである。ではなぜ、今回の映画にマスコミは飛びついたのだろうか?ヒューズは、マスコミにとりあげてもらうための必要な要素として次の5つを上げている。

  • ダビデとゴリアテの物語(弱者が強者を倒す物語)
  • 一風かわった、または突飛な話題
  • 物議をかもす話題
  • 有名人の話題
  • マスコミですでにホットな話題。

今回は、無名の監督の作品が、シンゴジラや宮﨑駿作品をこえるという、ダビデとゴリアテの物語、またこれまで、ジブリを脅かす存在などあられなかったことを考えると、これは突飛な話題ともいえるだろう。そして、なぜ一体空前のヒットをまきおこしているのかという、物議をかもす話題、そして、それを取り上げたマスコミがさらにそれに追従するといった、ホットな話題。これらが組み合わさっていたのである。マーク・ヒューズによると、これら4つ組み合わせて、つくることができれば、それはもうグランドスラムを達成したに等しいといっている。

そして、空前の勢いでひろがっていくこのバスは若者の間で絶大な人気を誇るYoutuberにも波及していくことになる。事前予告としても、男性と女性が「俺達は?私たちは?入れ替わってるー?」などの、いかにもつかってくれというフレーズを組み込み、パロディをしたら少し面白いかもと思わせるような、予告作りがなされていた。事実日本1のyoutuberのはじめ社長をはじめ、中高生に人気のMix Channel等で、事前のプロモーションCMをもとに多くのパロディが作られていた。これらのパロディを目にした若者は多いはずだ。

さて、ここで、一旦マーケティングのお話はおしまいである。ここまで、以下に東宝が事前の準備をし、バズらせる準備をし、それをひろったマスコミが、さらにバズを広げたのは、おわかりいただけただろう。それでは、リピートやその後の広がりを生む、シェアをしたくてたまらない、その口コミを生むために、最も必要な事、商品そのもの(映画の中身)について話を進めていきたいと思う。

深海作品はこれまでに、美しい音楽と、映像で何度も見たいと思わせる映画であった。ただし、宮崎駿などと違い原作がない(深海誠自身が原作をかいている)ためどうしても、ストーリに厚みがかけていた。本作では、美しい映像や、音楽はもちろんのことだがこれまで唯一といって足りなかったストーリに厚みが増したことで、深海誠作はさらに一歩進んだのである。また、脚本段階では「電車男」「告白」「モテキ」などを手掛けた稀代のヒットメーカー川村元気から話のピークなどのサジェッション等もありそのストーリーを引き立てる構成になっていったのである。ここでは、これまでの深海作よりも深みが加わったストーリーについて、深く掘り下げていきたいと思う。

2.1「結び」という心に響くキーメッセージが用いられている。

人と人のつながりが希薄になるからこそ意識される「結び」というキーワード。こと日本においては、東北大震災なども背景にありますが、このキーワードは、誰かに知ってもらいたい、誰かと繋がっていたい、そんなシェアリング世代に生きる我々を結ぶキーワードといって間違いないでしょう。

以下作中より
おばあちゃん「三葉、四葉 ”結び”って知っとるか?」

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三葉「結び?」

おばあちゃん「土地の氏神様を古い言葉でムスビってよぶんやさ。この言葉には深ぁぁい意味がある。糸をつなげる事も結び。人をつなげる事も結び。時間が流れることも結び。全部神様の力や。私らがつくる組紐もせやから神様の技。時間の流れそのものを表しとる。寄り集まって形を作り、捻じれて、絡まって、時には戻って、途切れて、またつながって。それが結び。それが時間。」

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2.2 日本の良さを感じさせる伝統や方言が点在している

どことなく使われる方言や水上神社の御神体がある土地の広大な風景。その広大な風景に神秘さを感じ、伝統に日本の良さを感じた人は多いはずだ

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2.3 ストーリーの目的がシンプルで、明確であること。

最初は、分からないが、その目的が徐々に明らかになっていき、ストーリーは一つの結末に向かって進んでいく。瀧が成し遂げたいことは、三葉に合いに行き自分の気持ちを伝え、そして彼女を救うこと、彼女がたとえ世界中のどこにいようとも。ただそれだけのストーリーなのである。人生は後悔の連続である。だからこそ、やり直しはきくと思いたい。もう一度だけ、そう強く願う瀧の、そこに自分を投影し応援した人も多いのではないだろうか。

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2.4 シンプルだけど先がよめないストーリー。

なぜか夢から覚めた、三葉と瀧の目から涙が流れ落ちる
→どういうことと引き込む。

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デートが終わるころにはちょうど空に彗星がみえるね?という三葉のメッセージに
瀧は何言ってんだという。
→んん?

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直後に三葉に電話をかけるが、つながらない。

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→デートがうまくいかなかった直後に三葉に電話をかけようとする相手が、異性である三葉である、これは先輩の言葉通り、今は三葉が好きという現れなのではないだろうか。この後の二人の展開が楽しみになる。

その後、突然入れ替わりは終わり、瀧は三葉に直接会いに行くことに。

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手掛かりは風景の写真のみの中、情報はなく、あきらめかけていたその時、ラーメン店で店主がその絵を見てその町が糸守町であることを知る。

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しかし、なんとその町は、3年前の彗星が予測不可能の核の爆発により、直撃し、町の三分の1が消し飛んでしまった糸守町だったのだ。

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→謎が深まる。

そして唯一の意思の交換手段であった、日記を見るが、なぜかすべてが消えてしまう。

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図書館に向かい、糸守町の犠牲者名簿目録を確認すると、そこにはなんと、「宮水三葉」の名前も。つい数週間前に、彗星がみえるねと言っていたはずなのに、そんなはずは、、、と瀧は困惑する。

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そしてなぜか瀧が手にしている組紐のミサンガ。これは何を示すのか。

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→さらに謎が深まる。

そして瀧は、糸守のご神体がある場所へ向かうことに。その場所を見ることで、瀧は、今まで自分が見てきたものは、夢でないことを確信する。

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また、ご神体の中で、自らがご神体に運んできた、口噛み酒を見ることで、自分は3年間時間がずれていた三葉と入れ替わっていたことを確信する。

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そして、結びの1つである、口噛み酒を飲むことによって、もう戻ることのなかった三葉の肉体にいれかわることに成功する。

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瀧は三葉の肉体で、三葉の友人である、てっしーと、さやちんと3人で、爆弾をセットし、電波ジャックをし、住民を避難させることによる避難計画をたてることにより、町を救うという大胆な戦略をたてる。

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→ただ、コンビニでお菓子の買いだめをしたり、コミカルさは忘れておらず、ちょっと、爆弾ってという幼稚さが、おいおいどうすんだというワクワク感をつくりだしてくれる。

そして遂に、時間を越えて、片割れ時に出会う二人。

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涙を浮かべながらも満面の笑みで、瀧との出会いを喜ぶ三葉

三葉「瀧君だ。瀧君がいる。瀧くん!!」

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瀧「三葉、お前に会いに来たんだ。大変だったよ。笑 お前すげぇ遠くにいるから」

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三葉「でもどうやって?私あの時。。」

瀧「三葉の口噛酒をのんだんだ」

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三葉「えぇーーーあれを飲んだー?馬鹿、変態」

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瀧「えぇー」

三葉「そうだっそれにあんた私の胸さわったやろぅ」

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瀧「どっどうしてそれを?」

三葉「四葉がみとったんやからね。」

瀧「ごめん、つい、すまん、1回だけだって」

三葉「1回だけ?んーーー。(一瞬納得したかを見せた後に)んーー何回でも一緒やあほっ」

君の名は。

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そこで繰り広げられるコミカルな会話にも思わず微笑んだ観客は大勢いるのではないでしょうか。

しかし、かたわれどきが終わったあと、瀧はまた三葉のことを忘れていしまう。

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町は救うことができるのか。そして、二人はまた出会うことができるのか。そんなシンプルながらも、奥が深いストーリーにみいってしまった観客が多いのではないだろうか。

君の名は。

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2.5 何よりもハッピーエンドであるということ。

これまでの深海映画とはすこし違った、終わり方をしている。それは見た後に、どこか、ほっこりする、ハッピーエンドになっているのである。筆者はこれまでの深海映画っぽくない終わり方だなと思う一方で、秒速5センチメートルでこう終わってほしかったという、
誰もが見た後に、幸せになれる終わり方に仕上がっている。
映画の好みは人それぞれではあるが、ハッピーエンドであることは、万人にお勧めしやすいという事実があるのも間違いないだろう。

8年後、なぜその町に行ったのか、自分が探しているのが、誰かなのか、何かなのか。そんなこともわからない中で、瀧は就職活動に苦戦する。

君の名は。

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お互いが、お互いのことをもう覚えていない、そんな中、二人は、偶然同じ方向に進む違う電車の窓際で顔を見合わせる。

君の名は。

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その後何かを確信した二人はそれぞれ別の電車から駆け下り、次の駅でおり、お互いを探し始める。そう8年前の電車の中ではかなわなかった、三葉の思いは、今ようやく形なったのである。

三葉「会えっこない・・・・。でも確かな事が一つだけある。私たちは合えば絶対すぐにわかる。私にはいっていたのは、君なんだ。君に入っていたのは私なんだって。。。。」

君の名は。

最後のシーンでは、階段をのぼる瀧と、階段を下りる三葉が1度はそうだとは思いつつも、なぜかお互いに踏み出せず、すれ違ってしまう。しかし、二人は勇気をふりしぼり、振り返り声をかけ合う。

君の名は。

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5年前、あの糸守の山頂で初めて二人が出会った時のように、三葉の涙を流しながらも満面の笑みを見れた事は、視聴者の心も、少し暖かく、少し幸せにしたのではないのだろうか。

君の名は。

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これまで以上に作りこまれた映画がリピートと広がりを生んだ。

3.1 共感を呼ぶ主人公

時には少しキツメの言葉をつかったりと今どきの女子高生ヒロイン。

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だけど弱い一面を見せたり、瀧君への一途な思いだったり、まさにこういう女性でありたい、あってほしいそういった、共感を呼ぶヒロインが作中では描かれている

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実は3年前。三葉は、東京に瀧君に合いに行っていた。東京に向かう新幹線の中で、三葉はこう思う「急に尋ねたら、迷惑かな?驚くかな?瀧君は嫌がるかな?」

当然3年前なので、電話をしても、電話は通じず、

「会えっこない。でももし会えたら、どうしようやっぱり迷惑かな、気まずいかな。それとももしかしたら、、、、少し喜ぶかな」

君の名は。

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二人は直接あってはいない、日記の中だけの会話だが、徐々に惹かれ会う二人、伝えたいけど、伝えられない、そんな恋愛感情を表しているこの心情を表す、三葉の思いがこもっている言葉に、うわーわかるーと共感を覚えた人も多いのではないでしょうか。

4.1 上映時間が107分であるということ。

今回の「君のは。」は上映時間が今回107分ある。前作の言の葉の庭は46分秒速5センチメートルは69分。これまでの深海映画は本当に短かった。それ故に、もうちょっと先が見たいといいう、他人に進めるのに1800円で46分かという気持ちにさせられてしまうのである。平均の映画時間が約2時間前後といわれるなかで、どんなに良い映画でも、1800円を払うからには、90分以上はほしいところだ。それは内容の深さにも、他人にお勧めするのにも当然かかわってくる。

5.1 RAD WIMPSという存在

深海映画はなんといってもBGM、主題歌を含め、音楽がいい。ただ、今回RAD WIMPSというこれまでよりもメジャーなミュージシャンとの見かけだけのコラボがヒットを導いたわけではないのである。

どういうことか?このRADWIMPSが書きあげた26曲の楽曲は、当然あった曲を映画に当てはめたわけでもなければ、出来上がった映画に曲をつけてもらったものでもないのだ。脚本を書き上げた第一稿をRADWIMPSの野田洋二郎に見せ、上がってきた音楽を聴いて、脚本を書き直して、また野田洋次郎が、曲を作り直し、そうして、1年半のやり取りをもとに出来上がった曲なのである。(前作の言の葉の庭では、秦 基博に大江千里「Rain」をカバーしてもらい、秒速5センチメートルでは、山崎まさよしのOne more time, One more chance が利用された点を考えると、主題歌を0からつくってもらった今回は大きなチャレンジでありかけであったことがうかがえるだろう。)

曲のタイトルがストーリーになりすぎているのが少し笑えてしまうのだが、事前の口コミを見ると、120万のうち約4割程度がRAD WIMPSにかかわるものであり、彼らの存在が大きかったことはこれで証明されているのではないだろうか。

君の名は。

クローズアップ現代

6.1 制作スタッフの力

個人的には、言の葉の庭でキャラクターデザインに土屋堅一が入ったことで、ぐっとキャラクターの質が上がったと思っているし、土屋堅一が描く、雪野先生が非常に好きではあるが当然、今回の田中将賀が描くキャラクタ一も当然超がつく1級品である。

新海誠
深海誠「田中正賀さんにキャラクターデザインしていただいて、それを安藤雅司さんに動かしてもらうというまさに夢のような作品でした。僕が第三者だったら、どれだけ楽しかっただろうと。こんななの見てみたかった。実際の現場はそれなりに大変だったと思いますというか大変でした。田中さんは僕とほぼ同世代で良くお酒とかを飲みに行ってたりしたのですが、安藤さんを中心とする僕よりもずっとアニメーターとしてのキャリアがある方々が現場では中心だったので、そうですね。僕の自分の力の足りなさとか未熟さとか、映画を作ることに対してのなんというか覚悟の足りなさというか、一回り上の先輩たちに日々教わる制作の日々でした。しかも直接言われず、背中で」いわれるみたいな。(笑)

深海誠は作画監督の安藤雅司(『もののけ姫(1997年)「千と千尋の神隠し(2001年)』)とキャラクターデザインの田中将賀『あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない(2011年)』『心が叫びたがっているんだ。(2015年)』)の力は非常に大きかったと語る。

新海誠
例えば安藤雅司さんってスタジオジブリで、もののけ姫や千と千尋の神隠しの作画監督をやって、日本のアニメーションのカルチャーの本当に真ん中でアニメーションをけん引してきた人だと思うのですが、今回作画、つまり絵を作る期間が少し短く、1年くらいしか無かったのですが、でも1年もあると思うじゃないですか?僕は、なんか徐々にペース上げていけばいいよねとか思っていたんですが、安藤さんは、1年しかないんです。これを日でわったら、1日何カットしかできませんという感じで、頭から鬼気迫る感じで、朝スタジオに来ると、お茶を飲む前に、紙と鉛筆の音が聞こえて、それが終電まで聞こえると、ほとんど席を立たないと。僕はどこかで宮崎駿の言葉で、映画って一生に何本もつくれるもんじゃないから、常に全力でなければならないという言葉をどこかで見たことがあるのですが、安藤さんはまさしくそのご薫陶(宮崎駿の)なんだなと。安藤さんだけでなく、すべてのスタッフが、アニメーションづくりに検診的で、宮崎駿そして、スタジオジブリを中心とした日本のアニメーション制作の先輩たちの理想の高さというのを今回の現場を通じて、間接的ではあるが教えられた気がします。」
Coco
くんとう【薫陶】 とは《香をたいて薫りを染み込ませ、土をこねて形を整えながら陶器を作り上げる意から》徳の力で人を感化し、教育することだワン

この制作スタッフの力があり、素晴らしい絵の描写にキャラクターが入り、コミカルな動きがのり、深海誠が得意とする独特の目線のカットそのすべてが高い次元で重なり会うことで、今回の作品が完成したのである。

おわりに

これまで、いくつもの要素に作品を分解しヒットの要因を探ってきた。まずはトライアラーをひろげるために、東宝が事前の試写会やサントリーとのタッグそして、RADWIMPSの楽曲で、ヒットができる地盤をつくったのである。そこに、ストーリーの厚みが加わり、映像、音楽、表情、描写、キャラクター、そのすべてが、最高のスタッフとともに、107分に凝縮されたことが、200億円を突破したその本当の理由であり、ただそれだけなのである。そして、それを口コミが広げ、マスコミが広げ、無名監督としては前例のないバズを引き起こしていったのである。

つまり、深海誠には超大ヒットを生み出す潜在な実力がすでにあり、そこにこれまで以上の入念な宣伝と、スクリーンの担保、RADWIMPSの映画のための音楽、これまでの深海映画に足りなかった、シンプルだけど先が見たくなる
ストーリー性が加わったこと、そして、コミカルな動きなどを含め、最高のスタッフが完成度を高め、107分でそれらすべてをしっかりと見せ切ったことが、映画を見た人に満足感を与え、シェアを広げ、バズをつくりだし、このメガヒットを生んだのである。

RAD WIMPSの「前々前世」といいう映画に絶妙にマッチしている、ヒット曲が出来上がった背景や、東宝が仕掛けた、スクリーン数や事前のプロモーション戦略を知れば、このメガヒットは決して、偶然生まれたのではなく、入念に準備され、起きるべくして起きたヒットであることが、少しお分かりいただけたのではないだろうか。ちなみに、ことにのユーキャンが選ぶウーマンオブザイヤーには東宝の今回君の名の宣伝プロデューサーを務めた、弭間(はずま)友子さん(39歳)が選ばれている。

深海誠作は、この「君の名は。」という映画も含め、常に、人と人とが生きる中で、必ず生まれる「距離」、一度離れてしまったら、もう戻る事は無いかもしれない距離について描かれている。その時は、気付かないけれども、それが大切な出会いだったと、忘れてしまっていたけれども、その出会いは、大切でかけがえの無いものだと思い出させてくれるのである。

あなたの目の前にいる人を、その出会いを、自分自身は大切にしているだろうか? これからも、これまでも後悔しないように。

瀧と三葉の言葉をかりて、もう一度繰り返そう。胸の中にしまわれていた、大事な人、忘れたくない人、忘れちゃいけない人、その人への気持ちを、思い起こさせてくれる、その出会いを、かけがえの無い出会いを、大切にしようと、そう強く思わせてくれる映画だったんだろうと、思う。

君の名は。

p.s.三葉が途中で髪切ったのは反則っすよね! とかっ笑